静岡地方裁判所浜松支部 平成4年(ワ)395号 判決 1993年5月07日
主文
一 被告らは原告らに対し、別紙物件目録(一)記載の土地について、静岡地方法務局磐田出張所昭和六二年六月二七日受付第九七一三号の同年二月七日相続を原因とし、被告ら及び原告ら各持分一一分の一とする所有権移転登記を、同日相続を原因とし、原告ら及び被告松本鳳次各持分六分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。
二 被告らは原告らに対し、別紙物件目録(二)記載の建物について、静岡地方法務局浜松支局平成二年九月七日受付第三六三三六号の同年八月一四日売買を原因とし、被告ら及び原告ら各持分一一分の一とする所有権移転登記を、同日売買を原因とし、原告ら及び被告松本鳳次各持分六分の一とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。
三 訴訟費用は、被告らの負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 被告の答弁
1 (本案前の答弁)
原告らの訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
2 (請求の趣旨に対する答弁)
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)につき、それぞれ主文一、二項記載のとおりの、原告ら及び被告らの各持分一一分の一とする所有権移転登記がなされている。
2 右各登記は、被告松本鳳次(以下「被告鳳次」という。)を除く被告五名が被相続人亡松本政平(以下「政平」という。)の養子であるとしてなされたものであるところ、同被告五名については政平との養子縁組が無効であることが既に裁判上確定し、戸籍の訂正もなされている。
3 被相続人政平の遺産について、静岡家庭裁判所浜松支部に遺産分割審判事件が係属しており、審判前の保全処分により、遺産管理者として弁護士佐々木成明が選任されている。
二 原告らの主張
1 本件土地について
原告ら及び被告鳳次は、いずれも被相続人政平の子であり、同人が昭和六二年二月七日死亡し、原告ら及び被告鳳次は、本件土地につき、相続分に応じた各六分の一の共有持分を取得した。
よって、本件土地の前記所有権移転登記は右権利関係に一致しないから、原告らは被告らに対し、これを一致させる更正登記手続を求める。
2 本件建物について
(1) 本件建物は、被相続人政平の遺産である浜松市佐藤町字上町一二二番地田一二五平方メートル上に存在し、もと訴外青山右左美(以下「青山」という。)が所有していた。
(2) 遺産管理者弁護士佐々木成明は、平成二年八月一四日、家庭裁判所の許可を得て、相続人らのために、青山から、本件建物を敷地の借地権とともに、一五三万円で買い受けた。
(3) 右売買契約当時、被告鳳次を除く被告ら五名に対する養子縁組無効確認訴訟が係属中であったことから、これら五名の表見相続人を含めた被告ら及び原告ら一一名の共有として、本件建物を買い受ける形式にし、移転登記がなされたものである。
よって、本件建物につき、本件原告ら及び被告鳳次の持分各六分の一の共有として所有権移転登記がなされるべきものであったが、錯誤により誤って、被告鳳次を除く被告ら五名を含む共有としてなされたものであるから、原告らは被告らに対し、更正登記手続を求める。
三 被告らの主張
1 本案前の主張
(1) 被相続人政平の遺産については、弁護士佐々木成明が遺産管理者として選任されているから、原告らは当事者適格を有しない。
(2) 本件土地については、前所有者が不明であり、本件建物についても前所有者青山を本訴の当事者として請求していないことから考えると、本訴は失当である。
2 本件建物について
本件建物は、平成二年八月一四日、原告ら及び被告ら全員で訴外青山から買い受けたものである。
第三 判断
一 被告らの本案前の主張(1)について
被相続人政平の遺産につき、審判前の保全処分として弁護士佐々木成明が遺産管理者に選任されていることは、当事者間に争いがないところ、遺産管理者が選任されても、共同相続人が管理・処分権を失うものではない。もっとも、遺産管理者の管理行為と抵触する範囲において、共同相続人の管理・処分権が制約を受ける場合があり得ると解されるが、本件全訴訟資料によるも、そのような事由は認められない。
原告らが当事者適格を有しないとする被告らの主張は理由がない。
二 被告らの本案前の主張(2)について
(1) 本件土地について、原告らが求める更正登記手続において、前所有者は何らこれに関与すべきものでないから、被告らの主張は理由がない。
(2) 本件建物について、原告らが求める更正登記手続において、前所有者青山も、登記義務者となると考えられるが、本訴請求と同人との法律関係を合一に確定すべき場合にあたるとは考えられないから、被告らの主張は理由がない。
三 本件土地について
<書証番号略>によれば、原告らの主張1の事実が認められる。
四 本件建物について
<書証番号略>によれば、原告らの主張2の(1)ないし(3)の事実が認められる。
本件建物の売買契約書(<書証番号略>)には、原告ら及び被告ら全員が買主として記載されているが、この売買は、前所有者青山と被相続人政平の遺産管理者弁護士佐々木成明との間で行われており、遺産管理者は共同相続人の法定代理人として、法定の又は家庭裁判所の許可に基づく管理行為を行うものであって、その代理行為の効果は、真正な共同相続人にのみ帰属し、後に相続人でないことが明らかとなった表見相続人には帰属しないと解すべきである。
そうすると、本件建物の売買によって、原告ら及び被告鳳次は、相続分に応じた各六分の一の持分を取得したと解すべきである。
五 よって、原告らの請求はいずれも理由があるから主文のとおり判決する。
(裁判官 野村高弘)
別紙物件目録
(一) 磐田郡福田町福田字寅改一八七〇番一
宅地 288.72平方メートル
(二) 浜松市佐藤町一二二番地
家屋番号五番五
居宅 木造瓦葺二階建
一階 36.85平方メートル
二階 28.92平方メートル